要約
千鳥という人生を半ば生きた小説家の男が、近所で起きた殺人事件の流れに、奇妙に符合しながら、自分なりの生き方の指針を模索し、一人の父親として成長していく物語。だけど、この男は、屈折した男で、通常に言われる理想的父親ではなく、愛人を抱え、それでも「子どもを救え!」「母親を守れ!」と宣言する父親へと成長するのであった。また、郊外からの脱出の物語ともいえる。
感想
というように、私は、これを男の成長=郊外からの脱出の物語として読んだ。最初は、女にだらしないこの男自身子どもであり、自分を救えという意味もあるのかと思っていたら、終盤、自分の子どもを救え!という感じにもとれた。だけど、まあ、現代の子ども、これから生き方を決定されていく全ての子どもを救えという感じなのだろうなと思った。なぜなら、現代社会の毒や、狂気を描き出そうともしていたように思うから。どうやって、子どもたちが生きる指針をたてていけよいのか、ということを主人公は自分も含め、迷って、答えを求めようとしている物語に思えた。また、殺人事件との符号のさせ方、はさまれる昔の同級生の話、男の子ども時代の話、全てが独特の強い印象で語られ、全てがうまく男の成長へとなぜか、絶妙に収斂していく感じはとてもうまいなあと思った。
この男の生き方指針を求めるやり方とか、郊外住民の共通性の感じ方、そしてそれを、抜け出したくてしょうがないみたいな、そういう感じ方とかが、けっこう共感できておもしろかった。
この男、生きるために、自分の立脚地を、理論で、しかもそれは現実に裏付けられ、体で実感された理論で、それを固めなければ、歩き出せないといったような、まどろっこしい男。そして、とても屈折している。さすが、小説家。
自分の道徳?倫理のようなものを、押しつけられたものでないものを、求めて、そして、答えにたどりつかせているところが、えらい?というか、すごい、というか、読みおわって、腹立つ感じがしない。
リビアも言っているが、私も、妻が出て行ったあたりから、この話、それでも結局家族の大団円で終わると思ったが、違う形を打ちだしながら、しかも、妻と子どもを大事にしていくことに決めたという結末に、へーという感じであった。
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